コンパクト閉圏を定義する その2

檜山正幸 (HIYAMA Masayuki)
Fri Jul 14 2006:start
Tue Jul 18 2006:draft

定義域を対象(objects)だけに限定した双対オペレータ(dualizer on objects)をベースにコンパクト閉圏を定義してみる。

目次

1. はじめに

記事「コンパクト閉圏を定義する」において、 双対付き対称モノイド圏(symmetric monoidal category with dualizer)を ベースとしてコンパクト閉圏を定義した。双対オペレータを対象(objects) だけに限定しても事情がそれほど変わらないことがわかったので、対象双対オ ペレータ(dualizer on objects)を持つ圏をベースにコンパクト閉圏を定義 してみる。

2. 対象双対オペレータ付き対称モノイド圏

(C; +, 0, σ)を対称モノイド圏とする。圏Cの対象類|C|の上で定義された写 像(-)*:|C|→|C|が次の性質を持つとき‘対象双対オペレータ’(dualizer on objects)と呼ぶことにする。(この記事内では、同型も「=」で示す。)

  1. A** = A (対蹠性、包合性)
  2. (A + B)* = A* + B*
  3. 0* = 0 (これは冗長、上の2つから導ける)

対象双対オペレータが備わった対称モノイド圏を‘対象双対付き対称モノイ ド圏’(symmetric monoidal category with dualizer-on-objects)と呼び、 (C; +, 0, σ, *)のように書く。

3. コンパクト閉圏の定義

コンパクト閉圏は、対象双対付き対称モノイド圏にKelly単位η= {ηA | A ∈|C| } とKelly余単位ε= {εA | A∈|C| } が付属した構造(C; +, 0, σ, *, η, ε)として定義する。今回の定義では、Kelly単位ηとKelly余単位εの両 方が必要である(どちらか一方から他方を定義できない)。

まず、A*、A + B に対してη、εがどのように振る舞うかを規定する「ねじ り公式」と「まとめ公式」を公理として採用する(これらについては、 記事「コンパクト閉圏を定義する」参照)。

  1. [left twisting formula; ‘左ねじり公式’] ηA* = ηAA*,A
  2. [right twisting formula; ‘右ねじり公式’] εA* = σA*,AA
  3. [left bundling formula; ‘左まとめ公式’] ηA+B = (ηA + ηB);(A* + σA,B* + B)
  4. [right bundling formula; ‘右まとめ公式’] εA+B = (A + σB, A* + B*);(εA + εB);

引き伸ばし公式としては、次の‘ヤンキング公式’を採用する。

FIG: ヤンキング公式

ヤンキング公式が、Z字/S字のジグザグ公式と同値であることは次のように してわかる。(以下はZ字の例だが、S字も同様である。)

FIG: ヤンキングからZ字ジグザグ
  1. 左ねじり公式により、ηA*をηAA*,Aに置き換える。
  2. 右にσA,0を付加して、εAとAをスワップする。
  3. クロスの計算をする。
  4. クロスが解消してストレートになり、Z字ジグザグになる。

よって、左ねじりを仮定すると、「ヤンキング ⇔ Z字ジグザグ」となる。同 様に、右ねじりを仮定すると、「ヤンキング ⇔ S字ジグザグ」となる。

NOTE: 公理間の関係

コンパクト閉圏の通常の定義では、ジグザグだけが仮定されている。という ことは、ねじり公式やまとめ公式もジグザグから導出可能なのだろうが、僕 (檜山)はうまく導出できないでいる(なんか見落としや勘違いがあるのだろ う)。

ただし、ジグザグとヤンキングを仮定するばねじりが出ることは次のように してわかる。(この例では、S字ジグザグとヤンキングから左ねじりが示され ている。)

FIG: ジグザグ+ヤンキング⇒ねじり

こらから、「ジグザグ、ねじり、ヤンキング」のうち2つを仮定すれば、他の1つが出てくることはわかる。

4. 射の双対の定義

f:A→B に対して、その双対f*:B*→A*を次のように定義する。

FIG: fの双対射f*:B*→A*

fの双対の別な表示を求めよう。 f* = (ηA* + B*);(f + σA*,B*);(εB + A*) であること が次のように示せる。

FIG: 双対射の別な表示
  1. 左ねじり公式により、ηAをηA*A,A*に置き換える。
  2. fとA*をスワップして、クロスを右に移動。
  3. 右にσA*,0を付加して、εBとA*をスワップする。
  4. クロスを計算する。
  5. fを右にシフトして、fとクロスを縦に揃える。

(B* + ηA*);(B* + f + A*);(εB* + A*) に関しても、左 右対称な変形操作で、(ηA* + B*);(f + σA*,B*);(εB + A*) にできるので、次の結果を得る。

5. 射の双対の性質

以上で定義した射に関する双対には次の性質がある。

「反変関手性 2」はジグザグ公式から自明なので、他を示す。


「反変関手性 1」と「対蹠性(包合性)」は次の図からわかる(説明は省略)。

FIG: 反変関手性 1: (f;g)* = g*;f*
FIG: 対蹠性

「モノイド積の保存:(f + g)* = f* + g*」を示すために、補題を準 備しておく。

FIG: 補題1

左下にσA*,0を付加して、A*とηBをスワップし、 同様に右上にσ0,B*を付加して、B*とεAをスワップする。クロスを計 算して余分なストレートジャンクションを縮めると結果を得る。

この補題を使って「モノイド積の保存: (f + g)* = f* + g*」を示す。

FIG: モノイド積の保存: (f + g)* = f* + g*
  1. f:A→B, g:C→Dとして、定義に従って (f + g)* を作る。
  2. まとめ公式を使ってクロスを明示的に取り出す(左右とも)。
  3. fとC*をスワップしてクロスを右に移動、gとB*をスワップしてクロスを 左に移動。
  4. クロスとターニング(ベント)ジャンクションを中央に寄せる。
  5. 点線で囲ってある部分に補題1を適用する。

「対称への作用:(σA,B)* = σB*,A*」を示すために、もうひとつの補題を準備する。

常套手段を使って以下のように示せる。

FIG: 補題2

「対称への作用:(σA,B)* = σB*,A*」は次のように示せる。

FIG: 対称への作用:(σA,B)* = σB*,A*
  1. 定義に従って(σA,B)*を作る。
  2. まとめ公式により、クロスを明示的に取り出す(左右共に)。
  3. クロスを計算する。
  4. Aと(B* + B + B*)のクロスに対して、Aと箱で囲んだ(ηB + B*) をスワップしてクロスを左に移動する。
  5. 箱とεBがS字ジグザグにより消える。
  6. あとは補題2を適用。